2日で健康保険証の新規発行が終了し、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせた「マイナ保険証」を基本とする仕組みに移行した。
マイナンバーカード(一部画像処理)
受付に置かれたマイナ保険証の情報を読み取るためのカードリーダーの前に、高齢男性がひとり。目を細め、小さな画面をにらみながらゆっくりと暗証番号を入力していた。
1時間ほど見ていると、カードリーダーの利用者は少なく並ぶ人はほとんどいないが、有人の受付には数人が並ぶ。
「12月2日から現行の健康保険証は発行されなくなります」「マイナンバーカードをご利用ください」とのポスターが張り出され、職員も「マイナンバーカードはお持ちいただいてますか?」「これからはマイナンバーのほうになるので」と声をかけていた。
しかし、マイナ保険証を出す人はぽつりぽつり。従来の保険証を出す人が目立った。
3年前に入院したのをきっかけにこの病院に通っているという安崎康博さん(73)は「カードリーダーの前に人が並んでいるのは今まで見たことがない」と話す。「今日は、いつもより使う人が多い気がするけど」
マイナ保険証を手に受診に向かう安崎康博さん=2日午前、東京都文京区で(戎野文菜撮影)
自身は2年ほど前にマイナ保険証を使い始めた。「保険証では『崎』となっている名字の漢字が、マイナンバーカードでは戸籍上の『﨑』に変わったが、これまではトラブルなく使えている」。現在は左腕を骨折して通院中で、手慣れた様子で20秒もかからずにマイナ保険証の読み取りを済ませた。
それでも、「何歳になるまで自分で使えるか分からないよ」と不安も。「持ち歩くカードの枚数が減るのはいいが、高齢者にとっては更新時に写真を撮らないといけない制度はどうかと思う。寝たきりになってたら、写真なんか撮れないよ」(戎野文菜)
「妻が昨日から入院しているのですが、紙の保険証が家のどこにあるか分からなくて。資格確認書を発行しに来ました」
男性の妻はマイナ保険証の登録済みだが、病院側から「マイナ保険証は預かっておけないので紙の保険証がほしい」と求められた。しかし、マイナ保険証登録に伴い従来の保険証は「いらないと思ってどこにやったか分からなくなった」(男性)。紙の保険証の発行はすでに終了しているので、この日始まった資格確認書を受け取ることになった。
マイナ保険証の登録手続を進める住民=2日午前、東京都墨田区で(加藤豊大撮影)
「マイナ保険証があればいいと思っていたのですが。病院によっては対応が違うのですね。国はそのあたりもはっきりさせてほしいです」と話した。
「マイナカードは持っているので迷ったのですが、今回はマイナカードへの紐付けはせず、資格確認書を受け取ることにしました」。転職を機に、社会保険(社保)から国民健康保険への切り替えのために窓口を訪れた女性(50)は、そう話した。
「持ち運ぶカードが減って便利だと言うけれど、自分のいろいろな情報が出回ってしまうリスクが怖くて。民間の下請け業者が個人情報を取り扱うケースがあるのかもしれないし。医療機関で履歴がみられるのも少し嫌な感じがしますね」
それでも、国民健康保険手続きの窓口には、住民が1~2人。
2日に交付が始まった資格確認書のサンプル=2日午前、墨田区役所で(加藤豊大撮影)
国保年金課の川又秀夫課長は「想定したほどの混雑はないですね。事前の周知が効いたのかなと安心しています」と胸をなで下ろした。
2日が近づくにつれ、「保険証が使えなくなるのか」との電話での問い合わせが増えていただけに、住民が押しかけるのではないかと懸念していた。
11月21日発行の墨田区報では、1面に特集を組んで「(従来の)健康保険証は有効期限まで使えます」と強調した。
今後の懸念は、現行保険証の有効期限切れのタイミングだ。国保では最長で来年9月末、後期高齢者では来年7月末となる。
川又課長は「期限切れ直前にマイナ保険証をもっているかどうかで、資格確認書と資格情報のお知らせのどちらを送るのか、その振り分け作業が新たに事務負担として出てくる」と説明。「住民からも『この書類は何か』との問い合わせが増加することも予想されるので、あらためて事前の情報発信に努める」と話した。(加藤豊大)
港区役所に設置されたマイナンバーカードのサポートブース=2日午前、東京都港区で(由木直子撮影)
マイナ保険証への対応に備え、マイナンバーカードの「申請サポートブース」を設置した港区役所。相談者はまばらで、大きな混乱は見られなかった。
ブースを訪れた男性(67)は既にマイナ保険証を利用しているといい、「医療費をいくら使ったかすぐ分かるから、(一定額を超えた分の還付を受けられる)高額医療費制度などを利用する時、電子申告(イータックス)と併用するとすごく便利」と語った。
区の担当者によると、区内のマイナカード保有率は7割程度。マイナ保険証について報道されるようになった9月以降、相談が増加し、多い日には10~15件ほどの問い合わせがあったという。
ブースの担当者は「今日はもっと多くの人が訪れると思ったが、来年まで現行の保険証が使えるので、利用者にも切迫感がないのかもしれない」と話した。
ただ、「保険証が使えなくなると勘違いして焦って来る人もいた。家に送られてきた『資格確認証』や『資格情報通知書』についての問い合わせもあった」と明かす。「少し分かりにくい制度ですね」(小沢慧一)
マイナンバーカードの見本
東京都目黒区の特別養護老人ホーム「青葉台さくら苑」では、101人のお年寄りが暮らす。平均年齢は89歳。認知症が進む方が多い。
保険証の新規発行停止やマイナ保険証への切り替えなどについての問い合わせは「ご家族からは時々ありますが、ここで生活されている方からはありません」(相談課の後藤ひろみ係長)という。
施設では、入所者が病院に行く際に職員が同行することが多いため、全員の健康保険証を預かっている。今後は、マイナ保険証ではなく資格確認書を預かることにしたという。
「施設側でマイナ保険証を預かることは管理の面から言ってもメリットはありません」と坂井祐施設長(48)。「(後期高齢者の一部などを対象に)マイナ保険証を持っている人にも資格確認書が交付される。こういうことをもっと早期に明らかにして周知して欲しかった」と話した。(長久保宏美)
林芳正官房長官は記者会見で、マイナ保険証に本格移行したことについて、「引き続き国民に、マイナ保険証のメリットや利用方法の周知広報を行うことにより、利用促進を図っていく」と述べた。
林官房長官は、9月の自民党総裁選に立候補を表明した際、「不安の声があるので、それを払拭して、皆さん納得の上でスムーズに移行してもらうための必要な検討をしたい」と保険証廃止時期の見直しに言及していた。(中沢誠)
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